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私は橋本一美。
身長168cmと女としては結構高いほうである。
髪も短いためよく男と間違われる。
そして、普通の大学生の女の子と違うところがもうひとつある。
それは男女問わず、綺麗な人や可愛らしい人が大好き、というところ。
昔から綺麗なもの、可愛いものには目がないのだ。

「見て!ゆっちゃん。あのミニスカの女の人。白くて綺麗・・・」
「一美ってほんと変態だよね」
「え〜、そんな。照れちゃうな」
「褒めてないですからね」
私と話しているのは高校生の頃からの親友、沢田夕子ちゃん。
愛称はゆっちゃん。
性格はちょっとクールだけど、150cmと小柄で目がぱっちりとしたかわいい子だ。
私が高校入って初めて声をかけた子でもある。

今日は2人で買い物に出掛けていた。
並んで歩くと、まるでカップルのようだ。
可愛いゆっちゃんと出掛けられて私は上機嫌だった。
「ゆっちゃん、かわいいから抱きしめてもいい?」
「はいはい。セクハラ大学生、さっさと服買いに行くよ」
いつも通りあっさりとかわされ、私はがっくりとうな垂れた。

今日、私たちは結婚式に着ていく服を買いに来ていた。
結婚するのは高校時代、塾の先生の中で一番の仲良しだった数学の枝里ちゃん。
癒し系で、教え方も上手なので大好きだった。
今通っている大学も枝里ちゃんがいたから入れたといっても過言ではない。
卒業した後も何度も枝里ちゃんに会いに行った。
そんな枝里ちゃんから結婚式の招待状が届いたのだ。
お相手はというと塾長の品川。
実家が金持ちらしいが、はっきり言って目立たない地味なタイプだ。
性格はいいほうではあるけれども。
「枝里ちゃん、なんであんな奴と!くっ」
「なんであんたが悔しがるのよ」
ゆっちゃんは少々呆れ顔だった。
「枝里ちゃんの友達も結構来るって言ったから、綺麗な人もたくさん来るんじゃない?
 品川の方は、まぁ、期待できないけど、もしかしたらいい男くるかもしんないし。
 お金持ちの人と仲良くなれちゃうかも!」
どうやらゆっちゃんはそれが狙いらしい。
そういえば、この間彼氏と別れたとかいってたっけ。
「ああ、そうですか」
私は気のない返事をした。
綺麗な人には興味津津だが、金持ちにはあまり興味がない。
夕子様にはそれが気に入らなかったらしく、むっとした口調で言った。
「一美だってチャンスなのよ。変態だけど、背が高くてスレンダーだし、美人だし。
 高校の時なんて、女子の間に密かにファンクラブが結成されたのよ。
 ちゃんと女らしい格好したら、絶対もてるんだから!」
「あはは、それはどーも」
男みたいな私にチャンスねぇ。
あるとしても、品川の友人じゃ期待薄いしなぁ。
枝里ちゃんの友達はきっとお美しい方々が多いに違いない。
でも、女じゃあんま相手してくれないのかな。
あーあ、自分が本物の男だったらなぁ・・・。
ん?
男?
「そうだ!」
私は突然大きな声を出した。
隣のゆっちゃんはびっくりして私の方を振り返った。
「え?なに?」
「ふふふ、ゆっちゃん。いい事思いついてしまったよ。
 私、ゆっちゃんとは違うところで服選ぶわ。」
にやにや笑う私の顔をゆっちゃんは怪訝な顔で見ていた。


結婚式当日。
ゆっちゃんは準備万端で私の部屋を訪れていた。
この日のために美容室に行ってきたらしい。
あの日買った、ピンクのフリルのついた可愛らしいワンピースがよく似合っている。
化粧にも気合いが入っているみたいだ。
しかし、そんないつも以上に可愛い彼女の顔は少し曇っていた。
「ほんとにその格好でいくの?」
「うん。だって面白そうじゃない。もしかして、似合わない?」
「うーん。似合っているかと言われれば、すごく似合ってはいるけど・・・」
「やった!」
私はもう一度胸がちゃんと押さえられているかを確認し、ネクタイを締めた。
そして、最終確認のために、大きな鏡の前に立った。

そこには、男の礼服をきた自分がわくわくした顔で立っていた。
結局、お父さんの礼服を借りたので少々大きい感じはするが、見た目は男っぽく仕上がった。

そう。
私は結婚式に男装して行くことにしたのだ。








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