02



会場はとても豪華で、広かった。
品川が金持ちだったというのは本当らしい。
人の数も非常に多い。
会場の大きさと人の多さに圧倒されていたが、徐々に慣れてきた。
周りを見る余裕も出てくる。
私は受付の時点でさっそく好みの女性を見つけ、胸を躍らせた。
しかし、その横ではゆっちゃんが大きなため息をついていた。
「いい男ってなかなかいないもんね。
 この中だったら、間違いなく一美が一番のいい男だわ」
どうやら夕子様のお眼鏡にかなう男が見当たらないらしい。
「確かにいないね」
先ほどから人間観察をしている私も男の方では目を引く人はいなかった。
品川の友人らしき男達はどれも似たり寄ったりといった感じだ。
やはり、男の姿で来たのは正解だった。
私は心の中でガッツポーズをした。

ざわっ

突然、周りが騒がしくなった。
どうしたんだろう?
「ちょっと、一美。入り口の方見て!」
ゆっちゃんが言う方向には男女が2人、立っていた。
その男女は普通の男女2人組ではなかった。
すごい美男美女だ。
「すごい格好良くない?あの男の人!
 あの2人カップルなのかな?」
少々興奮気味に話すゆっちゃんをよそに、私は女性の方をじっと見ていた。
男の方も整った顔をしていた。
日焼けをしていて、浅黒い肌。
背が高い上に、がっしりとしている。
ワイルド系というのだろうか。
でも、私のタイプではなかった。
しかし、女性の方は別だ。
身長はおそらく私よりも高い。
ヒールを履いているため、さらに高く見えた。
細身の体に青いプリーツワンピース。
首にはスカーフが巻かれていた。
吊り目気味で少しきつい印象があるが、
「綺麗・・・」
私のもろタイプだ。
モデルだろうか。
あんなに綺麗な人を見られるなんて、ここに来て本当によかった。
もしかしたら、話すチャンスがあるかもしれない。
「来てよかったね、ゆっちゃん」
「そうね」
そう言って、2人で笑い合った。

枝里ちゃんのウェディングドレス姿はとても綺麗だった。
ただ、誓いのキスの時は心の中で悲鳴をあげた。
ゆっちゃんは私のそんな心中を知ってか、私の肩にぽんっと手を置いた。

結婚式が終わり、そのまま披露宴会場へと移動した。
披露宴は滞りなく進行されていった。
私はというと、枝里ちゃんの友人席でお姉さま方から「かわいい、かわいい」
ともてはやされて、すっかり舞い上がっていた。
「ほら、そろそろ枝里ちゃんに会いに行こ」
にやけっぱなしの私に呆れ顔のゆっちゃんが声をかけた。

さっきまで、枝里ちゃんを囲んでいた友人たちもいなくなっていて、私たちは
すんなりと枝里ちゃんに声をかけることができた。
「枝里ちゃん、おめでとう!」
「ありがとう・・・って、え?一美ちゃん、その格好どうしたの?」
「えへへ、ちょっと面白そうだったから」
そう言うと枝里ちゃんは驚いた顔をしたが、
「ばれないように頑張ってね」
とやさしく言ってくれた。
こういうところが大好きなのだ。
なんで、こんなにいい人があんな男と。
私は心の中でもう一度悪態をついた。

すると、枝里ちゃんが何かに気がついたようだ。
わたしたちの後方を見て、口を開いた。
「ソウちゃんにケイちゃん!来てくれたんだ」
枝里ちゃんの友達が来たのだ。
そう思って、後ろを振り向いた。
するとそこにはあの美男美女の2人が立っていた。
「枝里、おめでとう」
「うふふ。ありがとう」
私たちは驚きで動けなくなっていた。
間近で見ると、あの女性は本当に綺麗で迫力があった。
「この子たちは私の元教え子なの」
そう言って、私とゆっちゃんを美男美女に紹介した。
「そして、そっちの2人は私の自慢の親友よ」
枝里ちゃんはにっこりとして私たちにウィンクをした。
どうやら美形好きの私たちのためにきっかけをくれたらしい。
枝里ちゃんの友達だったのか。
まぁ、品川の友達ではないとは思ってたけど。
「はじめまして。橋本かずみです」
枝里ちゃんの作ってくれたチャンスを逃すまいと、私は勇気を出してその美女
の前に手を出した。
彼女は微笑を浮かべ、私の手を握ってくれた。
しかし、彼女の手にはうっすらと汗がにじんでいた。
(あれ?この人・・・?)
私の顔が嬉々とした表情から一変、不思議そうな顔になっていくのを見るや
否や、彼女は私の手を離した。
その代わりにすぐさま、男の方が手を伸ばしてきた。
「俺は荘。こいつは俺の彼女のケイコだ」
枝里ちゃんは意味ありげにクスクスと笑い、ゆっちゃんはやっぱりかと肩を落とした。
ふと私はあることに気がついた。
誰も気づいていないようだが、ケイコさんの顔色が少し悪い。
人の観察力には自信がある。
「もしよろしければ、外に出てお話しませんか?」
私は思い切って誘ってみた。
少し休んだ方が良さそうだし。
すると、荘という男が睨んできた。
「おい、こいつは・・・」
「いいじゃない。ケイちゃんだってソウちゃんとずっと一緒にいたら、あきちゃうでしょ?」
彼の言葉を遮り、枝里ちゃんがフォローしてくれた。
彼は枝里ちゃんを信じられないと言わんばかりの顔で見た。
随分と独占力の強い彼氏だなぁ。

その後も荘さんは何かと反対してきたが、枝里ちゃんの説得のおかげで、ケイコさんを
外に連れ出すことに成功した。







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