04



「うわ。もうこんな時間だ」
自分の腕時計を見て、驚いた。
かれこれ1時間以上も彼と話していたのだ。
もうすぐで披露宴が終わってしまう。
「楽しくってつい話し込んじゃいました。すいません」
「いや。俺も楽しかったし。披露宴で荘にべったりくっついているより
 ずっとよかった。プライベートでこんなに話したのも久しぶりだしな」
散々しゃべって2人ともすっきりとしていた。
1時間程度しか話してないが、私と圭介さんはすっかり仲良くなっていた。

「そろそろ戻りましょうか。歩けますか?」
「ああ、大丈夫」
彼は平気そうな顔をして返事をした。
しかし、立った瞬間その顔を歪めた。
いくら絆創膏をしているとはいえ、痛いものは痛いだろう。
無理して歩けば、傷が悪化してしまう。
「靴、交換しましょうか?」
私はとっさに提案してみた。
「この服に皮靴は変だろ」
確かに。
私もこの格好にヒールはおかしい。
どうしたものか。
私は腕を組んで考えた後、思いついたことを率直に言った。
「じゃあ、服ごと交換しちゃいましょうか」
「は?」
「ほら、この後女の子とか誘ったりしたいんじゃないですか?
 枝里ちゃんの友達は綺麗な人もいたし、性格も良さそうだし。
 枝里ちゃんみたいな人いるかもしれないじゃないですか」
いくら女が苦手と言っても、嫌いというわけでもないだろう。
枝里ちゃんの友達ならいい人ばかりだ。
少なくとも、さっき友人席の人たちは。
このまま帰るのもなんか不憫だ。
せっかくの親友の結婚式なのに嫌な思い出だけが残ってしまう。
「交換って言ってもいつ返せば・・・。なにより、代わりに君が女装するこ
 とになる」
「枝里ちゃん通せば、連絡取りあえますよ。それに私、女なんで女の格好
 全然大丈夫です」
「ああ、なるほど・・・って、女!?」
彼は目をぱちくりさせ、私のほうを見た。
私が女であったことがよほど衝撃的だったらしい。

彼は私を凝視したまま止まってしまった。
もしかして黙っていたこと怒っている?
そういえば、寄ってくる女はダメとか言ってたしな。
いつもならこんな美人に見つめられれば嬉しくなるのだが、今は不安な気持
ちでいっぱいだ。
「ご、ごめんなさい。早く言えばよかったですよね?」
おそるおそる言ってみたが、彼からの返事がない。
相変わらず、私を無表情で見つめている。
私は焦り始めた。
どうしようと悩んでいると彼の口が微かに動いた。
「・・・交換・・・」
「え?」
彼の声は小さくて聞こえなかった。
しかし、次ははっきとした声で言った。
「誘いたい奴がいるんだ。服、交換してくれる?」
彼は輝かんばかりの満面の笑みを浮かべていた。
なんだ。
もう、よさそうな人を見つけていたのか。
彼の誘いたい人が気になったが、とりあえず後で聞くことにした。

私たちは、トイレで着替えることに決めた。
入口にあった地図を見て、人の来なさそうなトイレを探した結果、一番奥にあ
るトイレがよさそうだとういう結論に達した。
行く前に、わたしは彼のために化粧落としをゆっちゃんから借りてきた。
ゆっちゃんは不思議そうな顔をしたが、私は後で説明するからと先を急いだ。
ごめんね、ゆっちゃん。
 








 

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