09



今日は何という日なんだ。
こんなにも綺麗な人に会えるなんて。
私は質問されたにもかかわらず、本日2人目の麗人に見惚れていた。
ふっくらとした唇に長いまつ毛のくっきりとした目。
服に沿ってスタイルのいい体のラインがはっきりと分かる。
むき出しの肩は透き通るように白い。
化粧がちょっと濃いけど、色気漂う大人の女性だ。
その美しさは私の心にクリーンヒット!
「あっ、失礼しました!わたし、橋本一美と言います」
ようやく返事をしていないことに気付いた私は慌てて名乗った。
すると、彼女はきょとんとした顔になった。
あれ?なんか間違ったこといったかな?
私が不安になっていると、次に彼女は私の頭のてっぺんから足の先までじっく
りと見始めた。
そして、再び私と目を合わせて言った。
「なんで、あなたが圭介が着て行った服を着ているの?」
そう言われて、私は自分の格好を思い出した。
どうやらこの人は圭介さんが女装したことを知っているらしい。
「えっと、服は・・・」
私は話し始めようとしたが、途中で止めた。
「あの、お話しする前に圭介さんを下ろしたいんですけど」
私の足と腰はもはや限界だった。
老人を通り越して、生まれたての小鹿のような状態だ。
とてもじゃないが、まともに話せる状況ではない。
彼女もそれを分かってくれたらしく、部屋へ入れてくれた。

彼女の協力もあり、私は圭介さんを無事ベットまで運ぶことができた。
「じゃあ、次はあなたね」
「え?」
私?
何のことだろうか?
私が首を傾げると彼女は視線を私の足元へと向けた。
それにつられて、私も自分の足元を見た。
「うぁ」
ようやく私は自分の足の状況を把握した。
高いヒールで重い物を運んだ結果、私の足は彼の足よりもひどいことになっていた。
意識した途端、ずきずきと痛み始めた。
それでも我慢して大丈夫と言ったのだが、彼女は、
「いいから、座ってて」
と言って私をソファーに座らせ、別の部屋へと入っていった。
私は一人残され、ふと部屋の様子を見始めた。
部屋は寒色系で統一され、落ち着いた感じだ。
ただ、とにかく広い。
一人でいるために余計広く感じた。
周りを見渡している間に、彼女が救急箱のようなものを抱えて戻ってきた。
彼女は私の目の前の床に座り、救急箱を開けた。
私は彼女を床に座らせてしまっていることに居心地の悪さを感じた。
普通、逆の立場ですよね。
彼女は消毒液を出しつつ、口を開いた。
「つぶれた圭介を担いできた女の子はあなたが初めてよ」
「はぁ」
褒められているのか、呆れられているのか分からず、私は曖昧な返事を返した。
今までは捨てられてきたのだろうか?
だとしたら、今までよく無事にいられたものだ。
そんなことを考えていると、彼女は手当をしようと私の足に手を伸ばしてきた。
「ひっ」
彼女が足に触れた瞬間、私は小さな悲鳴をあげた。
体が自然にびくっと反応した。
なんだろう、なんか触り方が・・・。
「痛かった?」
「い、いえ。大丈夫です」
気のせいかな?
その後は特に何も感じなかったので、気にしないことにした。
「そういえば、あなたは・・・?」
私はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「あら、まだ言ってなかった?私の名前は花蓮。圭介と付き合って5年くらい
 かしらね。 今は同棲中よ」
かれんさん?
なんてぴったりな名前なんだ!
圭介さんにはこんなに素敵な女性がいたのか。
なのに酔っていたとはいえ、他の女を誘うとは。
この時、私の中の彼の好感度が急降下したのは言うまでもない。

「じゃあ、今度はあなたがなぜその服を着ているのか聞かせてもらえるかしら?」
手当が終わり、花蓮さんはそう言って微笑を浮かべた。
本当に綺麗な人だなぁ。
私は花蓮さんの笑顔を見て、改めてそう思った。
あの圭介さんと並んで歩いたらすごい迫力がありそうだ。
2人とも綺麗だからすっごくお似合いのカップルだな・・・

そう思った瞬間、なぜか胸にちくりと小さな痛みを感じた。







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