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「今日はここまで」
長々と続く先生の話がようやく終わった。

枝里ちゃんの結婚式から約一週間が経った。
ゆっちゃんにはあの日のことを大雑把に説明した。
彼女もそれで納得してくれたらしい。
そして、今日も私は彼女と一緒に、普通の大学生活を送っていた。
ただ、花蓮さんからいつ連絡が来てもいいように、携帯だけは肌身離さず持っていた。
「ゆっちゃん、お昼食べに行こう!」
「うん。あ、なんか今日はヒロも一緒に食べるとか言ってたよ」
「そうなんだ。ヒロと一緒にお昼って久しぶりだね」
ヒロというのは私のバスケ仲間。
本名は弘。
私と同じくらいの背丈だが、バスケはうまい。
顔が中性的でそれがもう、とっても可愛いのだ。
キャンパス内ではアイドル的存在である。
学科は違うが、たまに遊んだりご飯を食べたりする。
「おい!一美、沢田!早く飯行こうぜ」
噂をすればなんとやら。
男性としては少し高めの声が響いた。
「ヒロ、久し振り。今日も可愛いねっ!」
入り口に彼の姿を見つけると、私は彼に一目散に飛びつき、抱きしめた。
その結果、勢いで彼の首を軽く絞めてしまった。
「ぐっ・・・やめろ、この男女ぁ!殺すつもりか!」
「怒った顔もかわゆいのぅ」
「話を聞け!お前は女子大生の皮を被ったエロ親父か!」
「あながち間違ってはないわね」
2人のやり取りを見ていたゆっちゃんが冷静に言った。
3人はいつもこんな感じだ。
ヒロは顔は可愛いのだが、口が悪い。
でも、頭を撫でたり、抱きしめても振り払ったりはしない。
「ツンデレってやつじゃない?」
ふとゆっちゃんがかつて言っていたことを思い出した。

私たちはキャンパス内の食堂でお昼を食べた。
3人でお昼ご飯を食べるというといつもここだ。
「一美、午後空いてる?遊び行かね?」
「お、行く行く!ゆっちゃんも行こうよ」
私はヒロの言葉を受けて、何気なくゆっちゃんも誘った。
すると、ヒロの顔が一瞬強張った。
「そ、そういえばさぁ。沢田、今日用事あるとか言ってたよな?」
そのヒロの言葉を聞いて、ゆっちゃんは小さく笑って言った。
「はいはい。ありますよ、用事。だから、今日は2人で行ってらっしゃい」
「そうなの?残念。じゃあ、今日はヒロで遊ぶか!」
「なんで俺で、なんだよ!俺と、だろ!?」
その後も楽しい会話は食べ終わるまで続いた。

食器を片付け、食堂を出たときだった。
私の携帯が鳴った。
「誰からだろ?」
私はその携帯の画面を見るなり、すぐさまその電話に出た。
「も、もしもし!花蓮さん!?」
『そうよー。電話遅くなっちゃってごめんなさいね。今日これから時間ないかしら?
 仕事が一段落ついたの。無理そう?』
「ぜんっぜん、大丈夫です。ダッシュで向かいます」
『そう。よかったわ。じゃあ、待ってるわね』
私は花蓮さんが切ったのを確認してから、ゆっくりと携帯を閉じた。

電話が終わったのを見て、ゆっちゃんが話しかけてきた。
「花蓮さんって、この間話してた圭介さんの彼女?」
「うん!」
私は元気よく答え、続いてヒロに向き直り、顔の前で手を合わせた。
「ヒロ、ごめん。行けなくなった。また誘って?本当にごめんね」
ヒロの可愛い顔は、すでに不機嫌そのものだった。
「お前全く悪いと思ってないだろ。なんだ、その気持ち悪いくらい嬉しそうな顔は!」
「え〜、そんなことないよ。ほら、よい子だから機嫌直して」
私は彼をなだめるように、頭を撫でた。
「俺はどこぞの犬か!」
いえ、私の可愛い人形よ。
文句を言いつつも、私の手を退けたりはしない彼の頭をひとしきり撫で終わると、
「今度何か奢るから〜」
と最後にそれだけ言って、私は駆けだした。
門の辺りで少し振り返ると、残された2人は何か話しているようだった。
しかし、遠く離れた私にその会話が聞こえることはなかった。


「あーあ、せっかくデートできるチャンスだったのに。夕子様が話を合わせてあげた
 のも水の泡ね。一美は自分のことになると鈍感なのよねぇ。頑張って誘ったのに
 お気の毒だったわね、ヒロちゃん?」
「・・・・・・・・・うっせ」







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