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「この間は迷惑かけて悪かった」
「えっ、そんな気にしないでください。ただ送っただけで、大したことしてませんし」
私は突然の謝罪にびっくりして、慌てて答えた。
すると、彼は苦笑して言った。
「・・・男を抱えて家まで送るのは大したことだと思うよ」
「・・・」
そうですね。


私は圭介さんの車の中にいた。
忙しい彼に送ってもらうのは悪い気がして、何度か断ったのだが、花蓮さんと圭介さんが
声を合わせていうのだ。
「送らせてくれないんだ?」
もう、それはそれは悲しそうな顔で。
2人は私がその顔に弱いのを知っているのだろうか。
私好みの綺麗な顔が悲哀に満ち溢れている。
「送って下さい」
気づいた時にはそう言っていた。
私の言葉を聞いた瞬間、2人は満面の笑みを浮かべた。
あの状況下で断れる人などいないはず。
だから、仕方がなかったのだ。うん。
私はそう思い、自身を納得させた。
でも、なぜだろう。
これと同じようなシチュエーションに前にも出くわしたような気がする。
思い出せず、もやもやとしたが、とりあえず彼の車がある駐車場へと向かうことにした。

彼の車は外車であった。
なんともイメージ通りである。
どこのメーカーだとかは車に関し無知な私には分からない。
でも、きっと高いんだろうなぁ。
そう思うと、私はなんとなく、背もたれに体をつけられないでいた。
そんな私に圭介さんが声を掛けた。
「この道、右でいいか?」
「あ、もうこの辺で大丈夫です。すぐ近くですから」
「家の前まで送る」
「でも、道が少し狭くなっていま・・・」
「送る」
「・・・」
あのー、まだ言い終わってませんでしたよ?
よし、気を取り直して、
「それに・・・」
「送らせて下さい」
「・・・・・はい」
彼は酔っていてもそうでなくても、強引なところは変わらないらしい。
違いといえば言葉が丁寧になったことぐらいだろうか。
「えっと、じゃあ、右です」
「ん」
彼は短く返事をし、右へ曲がった。

しばらくして私の家が見えてきた。
「そこです。あの白い家」
「ああ、あれね」
彼は私の家を確認すると、家の目の前にある公園の駐車場に車を止めた。
「お忙しいのに家まで送ってもらっちゃってすいません」
「いや、自分がしたかっただけだから」
おぉ。
さらりとそのような言葉が出るとは、圭介さんなかなかやりますな。
今度、女の子送るとき真似しよう。
私はさりげない彼のセリフに感心していた。
ふと、もう1つ言い忘れていたことを思い出した。
「それとこのワンピースも。本当にいただいてしまっていいんですか?」
このワンピースとは他でもない彼が作った白いワンピースのことだ。
私はあのワンピースを着たままでいた。
着替えようとしたら、圭介さんに止められたのだ。
そして、もらってほしいの一言。
私が着ていった洋服は、もらった紙袋の中に入れられ、私の膝の上にあった。

「いいよ。むしろ貰ってくれないと困るな。一美のために作ったものだから」
彼の言葉についどきっとしてしまった。
こ、これは真似できない。
そんな彼の言葉はまだ続いた。
「よく似合ってる・・・イメージ通りだ。すごい可愛い」
「そ、それは・・・どうも」
私はもはや圭介さんを直視できなかった。
花蓮さんにも可愛いと言われたけど、圭介さんに言われると、なんかとてつもなく恥ずかしい。
しかも、彼は真剣な目で私を見つめながら言うのだ。
目を合わせられるはずがない。
「あ、あのっ。いろいろありがとうございました。さようなら!」
私は失礼かと思ったが、彼と目を合わせずに、早口でお礼と別れの言葉を述べた。
このような雰囲気に慣れていない私は早くその場から離れたかったのだ。
なぜ私のために作ってくれたのか聞きたかったが、また今度にしよう。
今はこの場から離れることが優先だ。
この空気は何かまずい気がするのだ。
慣れていなくとも、私は本能的にそれだけは感じ取った。
逃げるが勝ちだっ!
なぜかそう思い、車のドアに手を掛けた。

いや、掛けようとしたのだ。
しかし、私の手はドアから数センチ離れたところで静止していた。
「・・・圭介さん?」
そう彼が私の腕を掴んでいるのだ。
そのため、私は右手を動かせないでいた。
彼はというと私の腕を掴んだまま、俯いている。
そして、弱々しい声で言った。
「胸が痛い・・・」
「ええっ!?大丈夫ですか?」
それは大変だ。
さっきまでは普通に話していたのに、どうしたのだろう。
もしかして、持病の発作とか?
私は心配になって、彼の顔を覗き込んだ。
さぞかし青白くなっているであろうと予想していた彼の顔色は、意外にも健康的な肌色。
そして、美しい唇は綺麗な弧を描いていた。
笑ってる?
不思議に思って目線を上の方に移し、彼と目を合わせると、結婚式の日見たのと同じ、あ
の花のような笑顔がそこにあった。

なんで・・・―――――

そう思った時には彼の唇が私のそれと重なっていた。
 








 

 

 

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