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「それはきっとモテ期だと思うの」
「へ?モテ期?」

私は一通りしゃべり終えていた。
そう、何もかも打ち明けてしまったのだ。
でも、なんか話したことで気持ちが楽になった気がしていた。

「そう。女にはそういう時期があるんだって。複数の男性から好かれる時期がね」
「へぇ・・・。じゃあ、枝里ちゃんにもモテ期があったの?」
「ええ、そうね。高校生のころだったから、ずっと昔のことよ」
枝里ちゃんはにっこりと笑って、その頃を思い出しているのか、お土産のクッキー
を眺めながら、言った。
枝里ちゃんのことだから、今でも十分にモテると思うけど・・・。
「週に10人くらいから告白されたこともあったわね・・・」
「10人!?」
ええっと、1週間って7日ですよね?
「下駄箱を空けたら、たくさんの手紙が落ちてきたりね・・・」
「落ちてくるほど!?」
そんな漫画的展開まで!?
「影で撮られた覚えがない写真が売買されていたり・・・」
「え、それはちょっと危なくないでしょうか?」
「プールの授業があると、帰りには水着がなくなっていたり・・・」
「危険だよ!枝里ちゃん、どれだけ危険な学校通ってたの!?」
「まぁ、そんなこともあったり、なかったり・・・ね?」
「・・・」
枝里ちゃんは天使のような微笑を私に向ける。

そして、話は私のことへと戻った。
「それで、一美ちゃんは圭ちゃんのことが好きなの?」
「え!いや、その・・・」
「じゃあ、嫌いなの?」
「えっと、そういうわけじゃ・・・」
私は突然の質問にしどろもどろになった。
そんな私のことを枝里ちゃんはゆっくりお茶を飲みながら、待っていてくれた。
それに促されるように私は口を開く。
「圭介さんはすごく綺麗で、見惚れちゃうくらいなんだけど・・・なんだか一緒にいる
 と流されているような感覚になるし、圭介さん心臓に悪いことばかりしてくるし・・・
 それが嫌なのかな?でも、隣にいると安心することもあって・・・えっと・・・」
話しているうちに、だんだん自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。
「それが恋っていうやつなんじゃない?」
「ほへ?」
顔を上げると、枝里ちゃんがにっこりと笑っていた。

こ、こい・・・?
鯉?
いや、恋か。
・・・って、ええっ!?

「私が圭介さんに、ってこと!?」
「そう。話を聞いていると、そんな風に思えるんだもの」

私・・・圭介さんのことが・・・?

私の頭はさらに混乱し、頭を抱えた。
「ゆっくり考えてみたら?それで、はっきりと分かったら、自分の気持ちを正直に伝え
 ればいいのよ。そのヒロくんっていう子にもね」
「でも・・・」
でも・・・彼には・・・

「圭介さんには花蓮さんがいるから」

「え?花蓮?」
「うん。圭介さんの恋人で、すっごく綺麗な人なんだけど」
「恋人・・・?花蓮がそう言ったの?」
「うん。一緒に住んでいて・・・枝里ちゃん知らないの?」
圭介さんの親友である枝里ちゃんはなぜかきょとんとした顔をしていた。
しかし、しばらく経つと、何か思い当たったみたいで、すぐにいつもの笑顔になった。
「そっか、なるほどね。ふふっ」
「??」
私は枝里ちゃんの中で何が起きたのか分かるはずもなく、笑っている彼女を首を傾
げて見ていた。
「でもね、一美ちゃん。たとえ、相手に恋人がいようと、自分の気持ちを伝えるくらい
 はいいと思うの。別に、恋人と別れてくれって言うわけじゃないんだから。ずっと隠
 したまんまなんて、つらいだけだよ?」
「うん・・・」
でも、それって圭介さんにとっては迷惑なことなんじゃないだろうか。
「そして、好きだって気持ちがないなら、断る!」
「はぃ・・・」
自分の気持ちか・・・。

「ありがとう、枝里ちゃん。ちょっと頑張ってみる」
「どういたしまして」
彼女はまたやさしく笑った。

私は帰ろうと席を立った。
今日はいろいろ考えなければならないことがあるから。

「そうだ、枝里ちゃん」
「ん?」
私はドアの前で思い出したように枝里ちゃんに声をかけた。
「枝里ちゃんは、10人に告白されたとき、どうしたの?」
「丁重にお断りしたよ」
「・・・そっか」
まぁ、当然のことか。
私は変な質問しちゃったな、と思いつつ、ドアを開けた。
すると、枝里ちゃんはさらに続けた。
「だって、大事な友達だったから」
「え?」
振り返ると、にっこりと笑う枝里ちゃんと目が合った。
「みんな私にとって大切な友達だったから、ちゃんと自分の気持ちを言ったの。適当な
 返事はしたくなかったから」
大切な友達・・・
「その人たちとはその後、どうなったの?」
私はどこかすがる気持ちで、その質問を口にした。
「どうもなってないよ。確かに断った直後は気まずい雰囲気もあったけど、前と変わらず、
 ずっと仲良し」
私の気持ちを見透かしたかのように、彼女は微笑を浮かべながら言った。
「ううん。その前よりも仲良くなったかな」


家に到着し、玄関に入ると、私はドアに背を預けた。
「私の気持ちか・・・」
その様子を兄・一斗が見ていた。
「恋の悩みか?いや、まさかな・・・」

そのまさかですよ。
 







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