06



私たちは急いで披露宴会場に戻った。
しかし、披露宴はすでに終わった後。
枝里ちゃんが帰る人たちに花を配っているところだった。
人もまばらになってきている。

「一美!?なんで女の子の格好になってるの?」
「圭介!?なんで男に戻ってるんだ?」
ゆっちゃんと荘さんはほぼ同時に声を出した。
そして、互いに隣の人物の発言に驚いている。
「男!?」
「女!?」
2人の発した言葉はおもしろいくらい綺麗に重なった。
後方で枝里ちゃんが私たちを見て、微笑を浮かべている。
荘さんが圭介さんをケイコと紹介したとき、枝里ちゃんが笑っていた理由が今に
なって分かった。
「ちょっと!何があったのよ?」
「おい、圭介。ちゃんと説明しろ」
ゆっちゃんたちはすごい勢いで私たちに詰め寄ってきた。
「えっとー・・・」
どう話したらいいのだろう?
私の頭は先ほどのキスのことでいっぱいだった。
まだ顔が火照ってるような気がする。
そのせいで、うまく頭が働かないのだ。
悩んでいると、圭介さんが私の肩に手をまわし、ぐいっと私を引き寄せた。
高いヒールでうまくバランスのとれない私はそのまま彼の胸に飛び込む形となった。
彼は倒れこんだ私をしっかりと受け止め、ぎゅっと私の肩を抱いた。
わ、わわっ!
私はますます頭を混乱させた。
そんな私をよそに彼は平然とした態度で言った。
「まぁ、簡単に言うとこういうこと」
「は!?」
彼の突然の発言にはゆっちゃんたちだけでなく、私まで素っ頓狂な声を出してしまった。
「というわけで、荘。今日、一緒に帰れないから」
そう言うと彼は私の手首を掴み、玄関に向かって歩き出した。
ゆっちゃんたちはまだポカンとした顔をしていた。
「ちょ・・・まだ、行くなんて一言もっ・・・」
私は彼に引きずられるように歩きながらも抗議の声をあげた。
私の声を聞き、彼は足を止めてくれた。
よかった、話は聞いてくれるみたいだ。
これ以上、この人と一緒にいたら心臓がもたないよ。
ほっとしたのもつかの間、彼はすぐさま私に質問を投げかけてきた。
「これから用事でもあるの?」
「へ?特にはありませんけど?」
とっさにそう素直に答えてしまった。
しまったと思ったが、時すでに遅し。
彼の顔には花のような笑顔が。
「じゃあ、構わないよな?」
それは明らかに質問ではなく、決定事項の確認だった。
私があっけにとられ黙っているのを肯定と見なした彼は再び歩き始め、外に止まって
いたタクシーに乗り込んだ。
な、なんて強引な人だ!
落ち着いてくると、だんだん腹が立ってきた。
「あの、待って下さい!」
私が思い切って声を大きくしていうと、彼の表情が一変した。
「そんなに俺と食事するのが嫌なんだ?」
みるみるうちに悲哀に満ちた顔になった。
うっ。
こういう時、自分の美形好きが恨めしい。
嫌かと聞かれれば、間違いなくNOと答える。
むしろ、嬉しい。
しかし、こんなにもあっさりとついていってしまっていいものなのか?
なんか話がおいしすぎるような気がする。
微かにある私の中の理性が働いた。
すると、彼は付け足すように言った。
「食事だけ。教師としての枝里はどうだったのか、聞きたいし」
なるほど、枝里ちゃんの話か。
そういえば、この人は枝里ちゃんの親友だ。
なら、少しくらいなら大丈夫かな。
中庭での楽しいひと時を思い出した私は、キスされたのも忘れ、わずかに残っていた理性を
あっけなく手放した。
「じゃあ、お食事だけ・・・」
結局、目の前にいる綺麗な人の誘惑と懇願に負けてしまった私は彼と食事に行くことになった。
彼の顔が私の好みすぎるからいけないんだ。
うん。
そう心の中で呟いて、自身を納得させた。


数時間後、私はこの決断を大きく後悔することとなる。
 








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