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「ささ、飲んで。一美ちゃん」
「もう、お酒は・・・」
「いいじゃない。私の誕生日祝ってくれるんでしょ?はい」
「あ、ありがとうございます」
私は戸惑いつつも、シャンパンの入ったグラスを花蓮さんから受け取った。

「おい、無理して飲ませるなよ」
向かい側でお茶を飲む圭介さんが花蓮さんをたしなめる様に言う。
「別に無理させてるわけじゃないわよ。ね、一美ちゃん?」
「はぁ・・・」
私は苦笑いして、答えた。
圭介さんほどお酒が弱いわけではないが、強いわけでもない。
先ほどから花蓮さんに煽られて、もう何杯もシャンパンを口にしている私は
自分でも顔が火照っていることが分かる。
それに対し、私より飲んでいるはずの花蓮さんはまだ涼しい顔をしていた。
彼女はかなり強いらしい。

頭がクラクラしてくる。
「えへへ」
飲んでいるうちに、なんだか愉快な気分になってきた。
「一美ちゃん?大丈夫?」
急に笑い出した私を心配したのか、花蓮さんが覗き込んできた。
その花蓮さんに対し、私はにっこりと笑い、ぎゅっと抱きしめた。
「花蓮さん。だぁい好き〜」
「あら、私もよ」
いきなり抱きついた私を花蓮さんは少し驚きつつも、歓迎するように抱き返
してくれた。

そして、花蓮さんは小さな声で呟いた。
「たくさん飲ませた甲斐があったわね」
「花蓮。直ちにその汚れた手を離せ」
ソファーに深く座っていた圭介さんがその言葉に反応し立ち上がると、再び
抱き合う私たちを引き剥がした。
「失礼ね。私の手は綺麗よ」
「お前の心が汚れてるんだよ」
花蓮さんは圭介さんの言葉は無視して、私の方を向き、美しい微笑を浮か
べた。
「それで、一美ちゃん。今日は私の部屋に泊まってい・・・」
「一美、送る」
「ちょっとぉ、まだ言い終わってないでしょー」
「花蓮は1人で寝てろ」

そこで圭介さんは思い出したように手をポケットに入れた。
「はい、これ、俺からのプレゼント。といっても一美が選んだやつだけど」
そう言うと、圭介さんはあのブレスレットの箱を花蓮さんに渡した。
花蓮さんは受け取ると、早速その箱を開けて、ブレスレットを取り出した。
「可愛い・・・ありがとう」
お礼の言葉を聞いて、圭介さんからふっと笑みがこぼれた。
花蓮さんもそのブレスレットをして、嬉しそうに笑う。
少しの間、2人はお互いの顔を見合って笑っていた。

ぼんやりとする頭の中、言い知れない疎外感を感じた。

「じゃ、一美、送っていくから。一美?」
「あ。はぁーい。お願いしまぁす」
私は我にかえると、再び気分がよくなり、びしっと手を挙げて答えた。
「大丈夫か?行くぞ?」

圭介さんに手を引っ張られ、私は彼の車へと向かう。
ふと私の手を引っ張る彼の手を見た。
そういえば、圭介さんに手を握られるのって初めてかもしれないな。
いつも腕を掴まれてばかりだった。
初めて握る彼の手は綺麗だけど、大きくて・・・お酒を飲んでる私よりも、暖
かかった。

車に乗り、エンジンがかかる。
不思議と今日は、降りたいと思わなかった。
あんなに緊張して乗った車も、今はリラックスして乗れる。
隣で運転するのが圭介さんでも何とも思わなかった。
むしろ、安心する・・・。
お酒のせいなのかもしれない。

私が鼻歌を歌っている間に、いつの間にか、車は公園の駐車場に止まって
いた。
「一美。着いたぞ?歩けるか?」
「ダイジョブでーす」
再び手を挙げて答える。

そんな私の視界に1つの遊具が入った。
「圭介さん、ブランコ乗りませんかぁ?」
「は?」
私は勢いよく、車の助手席を出ると、運転席に座る圭介さんを引きずり出し
た。
「え、一美?」
「早くして下さいー」
私は戸惑う彼を引きつれ、誰もいない公園のブランコに乗った。
「ブランコなんて久しぶりだぁ。えへへ」
上機嫌でこぎ出す私を見て、唖然としていた圭介さんもしばらくすると、小さ
く笑って隣のブランコへと座った。
静かな夜の公園にブランコの金属が擦れあう音だけが響く。
子供のようにはしゃぐ私に、圭介さんが話しかけた。
「一美」
「はい、なんでしょー?」
彼が呼ぶ声に反応し、私はこぐのを止めた。
彼は真剣な顔で私に尋ねた。
「俺のこと、まだ嫌い?」
「はい、少し」
満面の笑みで即答する私に彼はがっくりとうな垂れた。
「笑顔で答えられると、かえって傷つくなぁ。でも、大嫌いから少し嫌いになっ
 たからまだいいのか?いや、しかし・・・」
圭介さんは俯いたまま、ぶつぶつと何か言っている。
どうしたのだろう、と私はブランコから降りて、圭介さんの前に立って、言った。
「大丈夫ですか?調子悪いんですかぁ?」
私が訪ねると、彼はゆっくりと顔を上げた。

月明かりに照らされ、彼の顔がより一層綺麗に見えた。
しかし、その綺麗な顔は寂しそうな表情を浮かべていた。
そして、首を傾げる私に、再び問いかけた。

「じゃあ、どうしたら好きになってくれる?」
 







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