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「おはよう、ゆっちゃん」
「おはよう。なんかすっきりしたみたいね」
「うん」
ゆっちゃんの言葉に、私は自信をもって頷いた。

昨晩、ずっと悩み続けた。
そのため、今日はかなりの寝不足である。
しかし、おかげで答えが出たのだ。

「あ、ヒロ」
ゆっちゃんの言葉に、思わずびくりと反応してしまった。
彼女の視線の先には友達としゃべりながらこちらに歩いてくるヒロの姿があった。
思っていたよりも会うのが早く、私はドキドキしていた。
なんて声を掛けようか・・・。
悩んでいる間にもヒロはどんどん近づいてくる。
ようやく、あちらも私たちの存在に気づいたようだ。
「お、おはよ。ヒロ」
私は出来るだけ平静をよそおって、挨拶をした。
「おはよ」
ヒロはちらりとこちら見て、ぼそりとその言葉を口にした。
そして、私たちの横をすっと通り抜ける。

あ・・・

それはあまりにも素っ気無い態度だった。
―――告白されたからには、今まで通り仲良子好しってわけにいかない―――
ゆっちゃんの言葉が頭をよぎる。
私は一瞬、ショックで立ち尽くした。
―――大切な友達だったから・・・―――
しかし、昨日の枝里ちゃんの言葉を思い出した。
このままじゃいけない。
私は振り返り、まださほど離れていなかったヒロの肩に手を置いた。
「ヒロ・・・」
「な、なんだよ」
心なしかヒロが緊張しているように見えた。
そのヒロに、私は怒りの目を向けた。
それを見たヒロが一歩引くのを確認する。
「今の挨拶はなってなかった」
「は?」
ヒロは私の言葉に対し、間が抜けた返事をした。
それに私が怯むことはなかった。
「やり直し!」
「なっ、普通に返しただろう」
「目をあわせないし、小さな声だし、いつもと全然違うよ」
「お前な、昨日のこと忘れたのかよ。ちょっと気まずい雰囲気になるだろうが!」
「忘れるわけないでしょ!でも、だからって何で気まずい雰囲気にならなきゃいけ
 ないの!?」
「普通なるもんなんだよ!」
「まぁ!じゃあ、わたくしが普通でないとでもおっしゃるの!?愛する人に向かって
 その態度はないんじゃございません!?」
「愛する人って・・・自分で言うか。ってか、お前が普通だとしたら、世界の常識がと
 んでもないことになるわ!!」
「はいはい、漫才コンビさん。授業始まるから、その辺にしておきなさいね」
ヒートアップしてきていたヒロと私の会話がクールなゆっちゃんの言葉によって沈下
された。

そう、それはいつも通りの3人の姿。
私はどこかほっとしていた。
気付けば緊張の糸もほぐれ、自然と穏やかな気持ちになっていた。

「ヒロ。今日のお昼、空いてる?話があるの」
私は別れ際にヒロにそう尋ねた。
どう言おうかと考えていたその言葉は自分でも拍子抜けしてしまうくらい、すんなりと
私の口から紡ぎ出された。
「・・・ああ」
返事をするヒロの表情は真剣なものに戻っていた。

                              ×××××

「ごめんなさい」
「え、ちょ、はやっ」

ヒロと私は昨日の喫茶店にいた。
ゆっちゃんは「頑張れ」とだけ言って、足早に帰ってしまったのだ。

そして、私は席につき、コーヒーを頼むと、早々にヒロに頭を下げた。
「おい。心の準備とかなしかよ」
「そんなもの与えてやってはいけないとゆっちゃん様がおっしゃっていたので」
「・・・そうだな。確かに傷つくヒマもなかった」
ヒロはそう言って、外を遠い目で見た。
その表情は特にいつもと変わらず、でも何か考えているように見えた。
「ヒロのことは好きだけど、それは友達として、だったから。気持ちは嬉しいけど、ごめん」
私は素直に自分の気持ちをゆっくりだが、しっかりと彼の目を見て言った。
「いいよ、別に。分かってた」
ゆっくりとヒロの目線がコーヒーへと移される。
「結局、あいつに負けたってことか・・・」
「え?」
「いや、なんでもない」
小さく呟いた言葉は私の耳には届かなかった。
しかし、次のヒロの声ははっきりと聞こえた。
「遊ぶのはすっぽかされたんだから、その分の落とし前はちゃんとつけてもらわねぇと困るな」
あ、そういえば、忘れていた。
そんな私の考えが顔に表れていたらくし、ヒロが目を光らせた。
「今度の休み。ゲーセン、カラオケ、ボーリングに付き合いなさい」
「ええ!?3つ全部!?」
「そう。まさか約束をすっぽかし、この俺をふった挙句、断ろうと言うんじゃねぇだろうな」
「いや、その・・・はい、謹んで行かせていただきます」
なんかヒロの態度が一変したような・・・。
「そして、あの時やれなかった勝負をする!」
「勝負・・・?」
その言葉にピクリと私の耳が・・・いや、魂が反応した。
「ふふふ・・・いいね、受けてたとうじゃないか、ヒロくん」
「よし・・・ここらで決着をつけようじゃねぇか。負けたら、相手の言うことをなんでも聞く
 つぅのはどうよ?」
「OK!今まで夢だったの。必ずやあなたに猫耳のカチューシャをつけさせてやるわ!」
「どんな夢だよ!?・・・ふっ、でも、俺に勝とうなんざ1年はえぇぜ。やれるものならやって
 みやがれ!」
「ヒロ・・・1年でいいの?」
私たちはすっかり元通りになっていた。
―――前と変わらず、ずっと仲良し―――
後で、枝里ちゃんにお礼言わなくちゃ。

こうして、私たちの勝負は次の休みに決行されることになった。






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